税務
2026/10/17
事業承継税制について!要件や利用すべきケースまでわかりやすく解説
※本記事では、非上場会社の株式等を対象とする「法人版事業承継税制」について解説します。
事業承継では、後継者に自社株式を引き継ぐ際に、贈与税や相続税の負担が大きな課題となることがあります。特に、会社の業績が好調で株式の評価額が高い場合、税負担の重さから株式移転そのものが難しくなるケースも少なくありません。
こうした税負担を軽減できる制度が「事業承継税制」です。一定の要件を満たす場合、贈与税・相続税の納税猶予を受けることができ、後継者や先代経営者の死亡など一定の事由が生じた場合には、猶予税額の全部または一部が免除されます。
この記事では、事業承継税制の仕組みや要件、一般措置と特例措置の違いから、メリット・デメリット、手続き上の注意点までわかりやすく解説します。
事業承継税制とは?

事業承継税制とは、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を後継者が贈与・相続等により取得した場合に、一定の要件のもと、その株式等に係る贈与税・相続税の納税を猶予する制度です。
事業承継税制の要件
事業承継税制の適用を受けるには、会社、先代経営者、後継者、株式の承継方法などについて、複数の要件を満たす必要があります。
要件①会社
対象会社は、非上場の中小企業者であることに加え、一定の風俗営業会社や、原則として資産保有型会社・資産運用型会社などに該当しないことが必要です。
さらに、対象となる株式等は議決権に制限のないものに限られます。個別の適用可否は、資産構成や事業実態、株主構成なども含めて確認しなくてはいけません。
要件②後継者
後継者には、贈与や相続によって株式を取得すること、贈与時に代表権を有することなどの要件があります。
特例措置では、複数の株主から最大3人の後継者への承継が対象となり得るなど、一般措置より柔軟です。また、令和7年度税制改正により、特例措置の贈与では、従来必要だった「贈与の日まで3年以上役員であること」という要件が不要になりました。
ただし、後継者は贈与の直前に役員であること、贈与時に代表権を有することなど、他の要件は引き続き満たす必要があります。
要件③雇用確保
事業承継税制は、承継後も会社が事業を継続していくことを重視しています。一般措置では、承継後5年間の平均雇用が承継時の8割を下回ると、原則として納税猶予の期限が確定します。
一方、特例措置では、5年間の平均雇用が8割を下回っても直ちに取消しとはなりません。ただし、その理由や認定経営革新等支援機関の所見を記載した報告書を、5年間の特例経営承継期間等の末日の翌日から4か月以内に都道府県知事へ提出し、確認を受ける必要があります。
事業承継税制の一般と特例の違い

事業承継税制には一般措置と特例措置の2種類があり、現在事業承継を検討している企業にとっては、期間限定の特例措置が特に重要です。
一般措置と特例措置とは
|
項目 |
特例措置 |
一般措置 |
|
対象株式 |
全株式 |
最大3分の2 |
|
贈与税の納税猶予割合 |
100% |
100% |
|
相続税の納税猶予割合 |
100% |
80% |
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後継者 |
最大3人 |
原則1人 |
|
雇用確保要件 |
弾力化 |
承継後5年間 平均8割維持が原則 |
|
特例承継計画 |
必要 |
不要 |
対象株式数の上限は、特例措置では全株式、一般措置では議決権に制限のない発行済株式等の総数の最大3分の2までです。
あくまで猶予の対象となり得る株数の上限であり、全株式の承継が義務付けられるわけではありません。
納税猶予割合は、一般措置では贈与100%・相続80%であるのに対し、特例措置では贈与・相続とも100%です。
後継者数は、一般措置では原則1人であるのに対し、特例措置では最大3人まで設定できます。特例承継計画の提出は、特例措置を利用する場合にのみ必要です。
このように特例措置は、一般措置に比べて大幅に利用しやすい制度設計になっています。ただし、特例措置の適用を受けるためには、2027年12月31日までに、後継者が対象となる非上場株式等を贈与または相続等により取得する必要があります。
特例承継計画の提出期限が延長
特例措置を利用するには、2027年9月30日までに、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けた「特例承継計画」を都道府県へ提出し、確認を受ける必要があります。提出期限は当初2026年3月31日でしたが、2026年度の税制改正により1年6か月延長されました。
なお、贈与の場合は、贈与後であっても円滑化法の認定申請時までに特例承継計画を提出できる場合があります。ただし、特例承継計画そのものの提出期限である2027年9月30日を超えて提出することはできません。計画には、後継者の氏名や事業承継の予定時期、承継までの経営見通し、承継後5年間の事業計画などを記載します。
提出期限が延長されたからといって、事業承継を先延ばしにしてよいわけではなく、株式評価額や後継者の状況、先代経営者の年齢などを踏まえ、早めに準備を進めましょう。
事業承継税制のメリットとデメリット

事業承継税制には、承継時の税負担・資金負担を大きく軽減できる効果が期待できる一方 、長期的な経営計画との相性を慎重に判断する必要があります。
メリット|贈与税と相続税の納税を猶予でき、一定の場合には免除される
後継者が取得した株式にかかる贈与税・相続税について、承継時の納税を猶予できる点です。特例措置では、対象株式等に対応する贈与税・相続税の100%について納税猶予を受けられます。
さらに、後継者または先代経営者の死亡など一定の事由が生じ、所定の届出等を行った場合には、猶予税額の全部または一部が免除されます。なお、贈与税の納税猶予中に先代経営者が死亡した場合には、贈与税の猶予税額が免除される一方、その株式について相続税の課税関係が生じ、一定の要件を満たすことで相続税の納税猶予へ移行することができます。
免除は自動的に受けられるものではなく、要件を満たした場合に限られるので、注意しましょう。
デメリット|承継途中で中止すると不利
事業承継税制は、後継者が長期的に会社を経営し続けることを前提とした制度です。
株式等の譲渡、要件不充足、継続届出書の期限内未提出など、納税猶予の期限確定事由に該当すると、猶予税額の全部または一部と利子税の納付が必要になる場合があります。
「とりあえず税金を払わずに済むから」という理由だけで利用するのではなく、承継後も要件を維持できるかまで見据えておくと安心です。
デメリット|将来M&Aを行う場合には猶予税額の納付が生じる可能性がある
納税猶予中に株式を譲渡すると、原則として譲渡した部分に対応する猶予税額と利子税の納付が必要になります。
ただし特例措置では、5年間の特例経営承継期間の経過後に事業継続が困難となった一定の事由が生じ、所定の要件を満たして会社を譲渡・解散する場合、譲渡対価や解散時の価額等をもとに再計算した税額を納付し、従前の猶予税額との差額について免除を受けられる場合があります。一般措置にはこの差額免除の仕組みはありません。
将来的なM&Aの可能性がある会社は、事業承継税制を利用する場合と利用しない場合を比較して判断しましょう。
デメリット|納税猶予の期限が確定する場合がある
事業承継税制では、承継後も要件を満たし続ける必要があります。
株式を一定の方法で譲渡した場合や、会社の状況が要件から外れた場合、必要な手続きを怠った場合などには、納税猶予の期限が確定し、猶予税額の納付が必要になる可能性があります。
税務申告後も、定期的な報告・届出を期限内に確実に行うことが重要です。
事業承継税制を利用すべきケース

事業承継税制は、すべての会社に適しているわけではありません。では、どのような会社で利用を検討するとよいのでしょうか。
後継者が決まっており、長期的な経営継続が見込まれる会社
後継者が決まっており、その後継者が長期的に会社を経営し、株式を保有していく予定の会社では、事業承継税制の活用を検討しやすいと考えられます。 後継者が長期間経営を続けることを前提とした制度だからです。
株式評価額が高く、通常の贈与・相続では税負担が重くなる会社ほど、納税猶予によるメリットは大きくなります。
ただし、後継者が決まっているからといって必ず利用すべきとは限らず、後継者の経営能力や会社の収益性なども踏まえて判断することが大切です。
承継時の納税資金負担を抑えたい会社
株式の贈与・相続時に多額の税金が発生すると、後継者は納税資金の準備が必要になります。資金を確保するために会社から配当を受けたり、資産を処分したりせざるを得ないケースもあります。
事業承継税制によって納税を猶予できれば、承継時の資金流出を抑え、事業に必要な資金を確保しやすくなります。
特に株式評価額が高い一方で現預金が潤沢でない会社では、事業承継税制の活用を検討する価値があります。
事業承継以外の方法を検討すべきケース
後継者が決まっていない会社や、将来的にM&Aによる第三者承継を予定している会社は、事業承継税制以外の選択肢もあわせて検討しましょう。
親族に後継者がいない場合は、役員・従業員承継や第三者へのM&Aも選択肢になります。会社を数年以内に売却する可能性が高い場合、事業承継税制の利用が将来の株式移転の制約になることもあります。
そのため「税負担が軽くなるか」だけでなく「今後どのように会社を残したいか」を軸に判断することが重要です。
事業承継税制の手続きで注意すべきポイント

事業承継税制は、株式を後継者へ渡して申告すれば終わる制度ではありません。承継前から承継後まで複数の手続きが必要です。
年次報告書や継続届出書の不備
最初の贈与税・相続税の申告期限の翌日から5年間は、毎年、報告基準日の翌日から3か月以内に都道府県へ年次報告書を提出して確認を受けます。
その確認書の写し等を添付し、報告基準日の翌日から5か月以内に税務署へ継続届出書を提出します。5年経過後は、都道府県への年次報告書は原則不要となり、3年ごとの基準日の翌日から3か月以内に、税務署へ継続届出書を提出します。
なお、災害等により贈与税・相続税の申告期限が延長された場合、年次報告書・継続届出書の報告基準日も、延長後の申告期限を基準として計算されます。
利子税が発生するリスク
納税猶予の期限確定事由に該当すると、猶予されていた税額に加えて、一定の場合には利子税の納付も必要になります。
事業承継税制は「税金がなくなる制度」ではなく、「要件を満たしている間は納税が猶予され、一定の事由が生じた場合に限り免除される制度」と理解しておくことが大切です。
将来的に株式を売却する可能性や経営方針が変わる可能性がある場合は、早めに税理士へ相談しておくと安心です。
期限内の手続きが必須
事業承継税制では、期限管理が非常に重要です。特例措置を利用する場合、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、事業承継の期限は2027年12月31日です。
その後も、都道府県への認定申請、贈与税・相続税の申告、年次報告書、継続届出書などの手続きがあります。一つの手続きだけではなく、複数の行政機関に対して期限内に手続きを行わなければならないため、スケジュールを一覧にして管理することが重要です。
事業承継税制・自社株の承継でお悩みならグロースリンク税理士法人へ
事業承継税制は、一定の要件を満たすことで、非上場会社の株式にかかる贈与税・相続税の納税を猶予できる制度です。
特例措置では、対象株式や納税猶予割合などが拡充されており、株式評価額が高く、承継時の税負担が大きい会社にとって有力な選択肢となります。
一方で、会社や後継者などに細かな要件が設けられているほか、承継後も年次報告書や継続届出書などの手続きが必要です。また、M&Aを予定している場合など、事業承継税制が適していないケースもあります。
そのため、納税猶予による資金負担の軽減だけでなく、後継者の状況、株式評価、今後の経営方針やM&Aの可能性も踏まえ、自社に適した承継方法を検討しましょう。制度の適用要件や税負担の試算、承継方法の比較は、会社の状況によって結論が異なります。
自社に適した事業承継の方法を検討したい方は、グロースリンク税理士法人へご相談ください。
■事業案内はこちら:https://www.tsurutax.com/#topbusiness
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監修者:鶴田 幸久 グロースリンクグループ 代表 / 税理士 専門は法人税務、事業承継、および経営改善支援。 グロースリンク税理士法人をはじめ、グロースリンクグループの代表として、中小企業の税務申告から事業承継、スタートアップ支援まで幅広く手掛ける。「経営者の第一の相談相手」として、財務基盤の強化や経営計画策定などの伴走型支援に尽力。 行政・地域企業との連携や経営者向けセミナーの講師、Webメディアでの執筆・監修活動を通じて、実務に役立つ税務・経営情報の普及に精力的に取り組んでいる。
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